もっぺん物語一覧
~第29回~ BOOTSBELL
寺町京極六角を下がったテナントビル2階に、輸入靴専門店と同居するかたちで
「BOOTSBELL」(ブーツベル)がある。
店内は、販売用の靴と修理済みの靴が混在し靴箱のよう。
オーナーである興津大介(おきつだいすけ)さんの経歴は興味深い。大学卒業後アパレルメーカーに勤務、その後ハーレーのバイク用品販売に転職、バイク乗りのブーツ修理をするなど靴修理の技術を独学で学び、靴修理の面白さを知る。四条河原町マルイに靴修理店のオープン話を聞きスタッフとして入社、腕を磨きその店舗を買い取る形で独立するが、マルイの閉店に伴い近隣ビルに移転、2017年3月「BOOTSBELL」の誕生である。
しかし、奇しくもコロナ禍等の影響で経営困難となり、2020年に現在の店舗に再移転する。これまでより店が狭くお客様は減ったが、顧客が来店してくれるので結果として顧客満足度も高くなったと興津さんは話す。
心掛けていることは、依頼者の要望をしっかり聞く、仕上がりのイメージを共有する。難しい修理はリスクも伝えコミュニケーションを大切にすることで、後のトラブル回避にも繋がっている。
店名の「BOOTSBELL」のBELLは、美しいという意味もあり靴をいつも綺麗に、毎日同じ靴を履かず靴を休ませることが大事にする秘訣であると。
今後の抱負は、「職人だけでなく経営者としても飛躍したい。夢は自分の店を持つことだったが、今はこれからが始まりだと感じている、自分も成長しお客も育てていく」と胸を張った。
安田 勇次(2024年7月17日取材)掲載:こごみ日和101号
▶BOOTSBELL
~第28回~ 宮川時計店
宮川達也さんは、80年以上つづく宮川時計店の三代目店主。「『直って良かった』と言ってもらえるのが嬉しいんです」と言う優しい笑顔が印象的だ。
アナログ時計を使う人は減ってきている。とともに、修理のニーズが減っているのが現状だ。そんな中、ひとつひとつの時計にもっぺん命を吹き込むのが宮川さんだ。
時計の修理ではまず、全ての部品を分解して掃除をする。顕微鏡が必要なほど小さな部品もある。油を差し直し、念入りに調整をして、蘇らせる。古い時計で部品の替えがない場合や、完全に壊れてしまっている場合も宮川さんは諦めない。別の部品で代用したり、今までの知識経験や技術を活かして、修理を行う。
「直したい!」が宮川さんの原動力。Instagramでは、日々の修理の様子を楽しく、時に面白く投稿している。お話からも時計への愛が感じられた。
時計の電池が切れた状態で放置するのは危険。電池から液漏れして、時計を壊してしまうこともあるので、早めに電池交換が必要。宮川さんはもともとメガネがご専門なので、メガネの修理や調整なども相談に乗ってくれる。
「『ずっと使ってきた』、『親から譲り受けた』など、物には思い出もついてきます。だからこそ、使い捨てにするのではなく、使い続けていただきたい。わたしは、その想いを叶えるお手伝いをしたい。そして、身近に修理できる人がもっと増えたらいいなと思います。」と最後に語ってくれた。
岸 さゆり(2024年1月24日取材)掲載:こごみ日和99号
~第27回~ クリーンマジック山科駅前店
洋服の丈やウエストが合わない、裾がほつれてきた…。でもいいやこのままで。直すのも面倒だし、新しく買ってもいいかな。と諦めている服はありませんか?買い替えるという選択肢以外に、「お直し」という方法もあります。
今回取材したのは、山科駅からほど近い「クリーンマジック山科駅前店」。クリーニング屋さんに「お直し工房」が併設されています。クリーニングのお客さんがそのまま相談に来ることも多いのだとか。「昔気に入って着ていたけれど、胸元のレースを取って欲しい」「ロングコートをショートにして欲しい」など、長く着用したいからこその要望もあるそうです。確かに年齢と共に、似合う服が変わってきたり、微妙に体型が変化したりしますよね。
クリーニング部門は、環境に優しい「シャボン玉石けん」を使用していることが特長のひとつです。家では水洗いしづらい洋服も「アクアトリートメント(汗抜き水洗い)」で長持ちします。さらに、ハンガーは回収システムが導入されていて、回収されたハンガーは綺麗に消毒され、何度も使用されます。山科駅前店の回収率は非常に高いそうです。
洋服を大切に、長く着るためにまずは日ごろの手入れが重要です。衣替えでタンスにしまう前にクリーニングに出してみては。そして、「もう着られない」と諦める前に、お直しのプロに相談して、お気に入りの服を「もっぺん」蘇らせてみませんか。
岸 さゆり(2023年11月7日取材)掲載:こごみ日和98号
~第26回~ カメラのことなら何でも! カメラの大川
出町柳から賀茂大橋を渡った南西側、黄色いテントが目印のカメラの大川。地域に根差したお店は、今年で創業90年。京都の中で最も歴史のある老舗カメラ屋だ。3代目オーナーの大川眞まことさんが、優しい笑顔で迎えてくれた。
カメラは技術の進歩と共に変化を遂げ、今では誰でも手軽に楽しめるスマートフォンのカメラが主流だ。店内には様々な種類のカメラ、カメラ用フィルム、現像機器などが並ぶ。中でも一際目を引いたのは、フィルムカメラ。フィルムカメラと言えば、祖父母世代から受け継ぐ方も多く、見た目の美しさや、現像した時の風合いの良さから需要も高いという。しかし、年代物のカメラとなればメンテナンスが付きもの。最近は購入から5年以上経過したものは、メーカーが修理を受け付けないケースも多い。カメラの大川では、販売だけではなく、確かな技術を持った修理業者への仲介役も担ってくれる。「本当に腕の良い職人は、足りない部品は自分で作ってしまうんですよ!」と、大川さん。そんな腕利き職人の数も年々減っていて、京都にも指折り数える程しかいないそう。カメラの大川では、傷みが目立つ古い写真の復元も手掛ける。店内には、大川さんの手によって復元された昭和30年代の出町商店街周辺の写真が飾られている。「大切な思い出を写真と共に受け継いでいって欲しい」と、大川さん。懐かしい記憶や思い出を写真にして、家に飾って楽しむのもおすすめだ。「カメラのことなら何でも!」と頼もしく語る大川さんの姿が印象的だった。
島藤真紀(2023年7月28日)掲載:こごみ日和97号
~第25回~ 12万件のお直し・リフォーム ピットイン本店
少し傷んでしまった服、気に入っていたのにサイズが合わなくなった服、、、「眠っている洋服、一度起こしてみませんか?」をキャッチフレーズに、洋服のお直し・リフォーム業を営むピットイン本店。
オーナーの福田さんは、洋裁の仕事をしていたお母様の影響もあり、10代から婦人服のオーダーメイドを専門に洋裁の技術を磨いてきた。その経験を活かして、リフォームの仕事をスタートし、ピットイン本店を開業。ズボンなどの裾直しやボタン付など簡単なお直しをはじめ、着物から洋服へのリフォーム、婦人服のオーダーまで幅広く手掛ける。
洋服のリフォームは、洋服を一度解体してから修繕、その後また元通りに縫い直すという複雑な作業が必要なケースもある。手間と時間がかかるが、福田さんは「洋服を長く着てほしい、一部分が壊れた、サイズが合わないからといって捨てるなんて勿体ない!」という思いでお客さんの声に応える。開業から現在まで受けた注文は、なんと12万件以上!福田さんの技術を信頼して、京都市内外から相談にくるお客さんが絶えない。春になると、学生服のリサイズの依頼が多くなるという。ここでも福田さんの丁寧な仕事が光る。サイズを小さくする際は、元に戻せるよう詰めた生地を切り取らずに残しておき、詰めて余った生地が表に響かないよう当て布を施すなど、先を見越したお直しには細部にわたり工夫を凝らす。福田さんの洋服を直す技術には、お客さんを思いやる気持ちと洋服への愛が感じられた。
もっぺん着たい服をお持ちの方は、ピットイン本店で一度起こしてみてはどうだろうか?
島藤真紀(2023年5月6日取材)掲載:こごみ日和96号
~第24回~ 食道具竹上
ある調査によれば、キッチンで最も出番の多い道具は包丁。そして「もっとこだわって買えばよかった…」
と後悔するNo1アイテムもまた包丁だそうです。さて、あなたはどんな包丁を使ってる?切れ味はどうですか?「それな…」と表情を曇らせたあなたに朗報です。
食道具竹上は、新進気鋭の料理包丁専門店。プロの料理人を唸らせる店でありながら、敷居は決して高く
ありません。自社製・他社製を問わずに包丁の修理を受け付けている、たいへん度量の大きなお店です。
竹上の修理は単なる「研ぎ直し」ではありません。包丁に歪みがあれば、重い金槌で叩いて平らに戻します。刃こぼれがあれば、包丁の幅を詰め、全体のバランスを整えます。最後の仕上げが「本刃付け」なる研ぎ。多くの包丁を新品の状態より「切れる」状態まで持っていくことができるそうです。
長年愛用してきた三徳包丁の修理を実際にお願いしてみました。その仕上がり、その切り心地たるや、「ぅええええ!」と叫んでしまったほど。まったく力をかけることなく、食材が
すーーっと切れていく気持ち良さに驚きです。“新品より切れる”は本当でした。
ちなみに修理費用は2,860円。包丁の幅が気持ち小さくなった気がします。購入時に「研ぎと修理を繰り返して、ペティナイフになるまで使える」と言われましたが、まだまだ先は長そう。「一生もん」どころか次世代までいけそうです。
包丁の切れ味にストレスを感じている方、ぜひご相談を。毎月開催されている『庖丁の研ぎ方講習』もおすすめです。
佐藤文絵(2023年2月1日取材)掲載:こごみ日和95号
~第23回~ 要らないものを欲しい人へ 「わくわくリサイクル アールイー」
伏見区醍醐に本店を構えるアールイーは、京都市内を中心に出張買取をしてくれるので、不要品が大量にある、処分を急ぐという時に嬉しいリユースショップ。店の前身ともいえるのが、“軽トラック巡回による不用品回収”。代表の吉田央さんが、友人の始めた回収業を手伝いながら「まだ使えるものも多いのに廃棄するのはもったいない」と思ったことが店舗を構え中古品販売をするきっかけとなった。
扱う商品は、電化製品、パソコン、カメラ、楽器、衣料、食器、ブランド品…と幅広いが、中でも冷蔵庫、洗濯機、液晶テレビなど生活家電の充実ぶりには目を見張る。回収した品は、簡単な補修・清掃を行い、ピカピカに磨き上げて店に出すので、「新品みたい」と言われることもしばしば。「価格や品揃えも負けないぞ!という気概でやってます」と胸を張る。
引取り希望が多いのが健康器具。「通販の影響か、健康器具が多いんです。しかもあまり使われていない。買う前に本当に必要なものかを考えて買ってもらえたら…」と吉田さん。健康器具はあまり売れないので、数が増えると「ご自由にどうぞ」と店先に出すという。「100円でも売れないが、タダなら引取り手がある。宣伝広告費と考えています」と。100円と0円の差を日々実感しているからだろうか。「タダでいいから引取って」と言われることも多いが、多少傷や汚れのある品でも修復可能、商品になると判断すれば、せめて10円でも100円でも値をつけて買取るようにしているのだとか。
家に眠らせている不要品。もったいないと感じたら、アールイーさんの手を借りて地域で循環させてはいかがだろう。
藤原幸子(2022年11月4日取材)掲載:こごみ日和94号
~第22回~ ウエットスーツのリペアはお任せ!ベアフットサーフショップ
一乗寺駅から東に向かうと、開放的なお店の窓からオーナー、金森さんの笑顔が見えた。ここでは、ウエットスーツのオーダーメイド制作やリペアを引き受けている。
伸縮性のあるウエットスーツの縫製には技術が必要。水の侵入を防ぐため縫い目が表に出ないのも特徴だ。愛用のミシンには、開業当時から大切に使われてきた歴史が詰まっていた。
「サーフィンは、地球のエネルギーを全身で感じられるスポーツ。サーファーには、自然や環境を大切にする人が多い」と語る金森さんも、仲間と一緒に浜辺の清掃活動などを積極的に行っている。
ウエットスーツの主原料であるゴムは、硬化が進むとリペアが難しくなる。お手入れ方法を意識することで、硬化を遅らせることが出来る。日ごろの「丁寧な水洗い」と「陰干しでの乾燥」がポイント。環境を大切にする想いは、一着一着のウエットスーツを無駄にせず、長く着続けることに繋がっている。
ウエットスーツのリペアの対象には、サーフィンだけでなくトライアスロンやダイビング用ウェアなども含まれる。手元に補修が必要なウエットスーツがある方は、一度ご相談してみてはいかがでしょうか。
岸さゆり(2022年7月5日取材)掲載:こごみ日和93号
▶ベアフットサーフショップ
~第21回~ 頼りになります。トラブルの助っ人「パソコン修理の亀幸」
「大事なデータを守ることができた」「新品に買い替えなくて済んだ」…。修理を依頼されて復旧後、そんな声が届くことがあるという。パソコン修理の亀幸を起業して14年以上。開業医、学校関連など、機密データを扱うユーザーもあり、「命の恩人」に近いと感謝されることも。もちろん、ちょっとした修理の対応もOK。ビジネスをはじめ、家庭や個人にとってパソコンは必需品でもある。しかし、パソコンという情報通信機器、使いこなすには知識や技能が必要で、思い通りには動いてくれない。時には「起動しない」「画面が固まってしまう」などのトラブルも。構造も機能も複雑な上、進化も早く、一般ユーザーは取り残されてしまう。パソコン修理は専門家の領域となる。しかし、製造元や発売元に問い合わせると、対応不可と返されたりする。「どうしたらいい??」、戸惑うばかりのユーザーに対応するパソコン修理業は乱立状態。価格協定などがないため、高額を要求される場合もあると聞く。さらに修理に要する時間も気がかり。亀幸は明瞭価格設定に徹している。修理に要する時間もほとんどの場合、即日から翌日で完了する。
亀幸の事業は、パソコンの修理が主軸だが、修理やデータ復旧のほかオリジナルパソコンの組み立てやパソコン教室なども業務範囲だ。「どうぞ、パソコンでお困りの時は、お気軽に」という亀田健司さん。
最後にユーザーへ「パソコンデータの保存に絶対安心はありません。必ず複数の保存媒体への保存を。それがあればデータを失うリスクが減ります」と、貴重な助言をいただいた。
~第20回~ アーティフィシャルフラワー(造花)の修理 京都フラワーサービス
晴れの日や記念行事などに添えられるブーケやフラワーアレンジは、その人にとって愛情や感謝、喜びや祈りが込められたかけがえのないもの。
いつまでも大切にしたい花であっても、時を経て劣化することもあります。もし、よみがえらせることができるなら…。そんな人々の花への思いを受け、お手伝いできればと、時岡貴美乃さんはアーティフィシャルフラワーの制作の合間に補修を手がけるようになりました。
引越しや模様替えなど、日々の暮らしの波にさらされ、大切な花が汚れたり、傷ついたり…。そういう時の相談に時岡店長は動きます。「別に宣伝しているわけでも、本業でもないのに、全国から依頼が来て…」と語ります。補修作業は、簡単ではありません、落ちた花びらを接着し、染料を使い、色を復活させます。ぺちゃんこになったブーケを元の形に戻すこともあるそうです。補修を終えた後、依頼者の手元に送り返すと、必ず感謝のメッセージが店長の元へ届くといいます。
「Something4(サムシングフォー)」という英国の結婚式にまつわる言い伝えを店長は話してくださいました。その中の1つは「Something Old(サムシングオールド)」と言って「何か古いもの」を身につけたり、使うこと、それが幸せと繁栄をもたらすと語り継がれているそうです。
花への慈愛を湛えた時岡店長の笑顔が心に残りました。
森田知都子(2022年1月18日取材)掲載:こごみ日和91号
~第19回~ おひとり、おひとりに快適な生活を「メガネ・補聴器のギルド」
明るく、優しいお人柄が滲み出る統括本部長の本川栄治さん。取材中もお客さんが相談の為に、入れ代わり立ち代わりやってきた。
メガネ・補聴器のギルドは創業40年以上続く会社で、令和3年1月には、京都市輝く地域企業表彰※の「地域企業輝き賞」を受賞。地域の人が気軽に立ち寄れるお店で、修理をしたお客さんから畑の野菜などを差し入れに貰うこともあるそうだ。
目の働きは複雑で、生活の場面によって快適なメガネは違う。場面に合ったメガネを使い分けることが、実は目にとっては心地よい。つまり負担が少ない。
補聴器も、ただ音量を大きくするものではない。音の聴こえの好みは人それぞれ。また、生活環境も人によって違うので、補聴器の調整はお客さんの家を訪問して行うことが多い。例えば、洗い物の音が心地よく感じる人もいれば、そうでない人もいる。人と話すためだけに聴力が必要なわけではない。視力についても同様だ。ひとりひとりが本当に快適な生活を送るためにサポートをするのが、メガネや補聴器なのだ。
メガネも補聴器も買った時が終わりではなく、自分に合った状態になるまでなんども相談・調整をして自分だけのメガネや補聴器に仕上げる。
時の流れと共に視力や聴力の状態が変われば、その度に丁寧な調整や修理を行う。そうすることで、長く愛用でき、快適な生活を送り続けられる。
「お店で少し修理するだけで直るものも多く、直すとお客さんの生活の質が上がる。合わないものを我慢して使って欲しくない。」と本川さんは語ってくれた。
※京都市輝く地域企業表彰…地域に長年親しまれている事業者をはじめ、安心安全への貢献、文化の継承、自然環境の保全、多様な担い手の活躍支援等、地域に根差して企業活動に取り組んでいる事業者を対象に表彰する制度。
岸さゆり(2021年10月16日取材)掲載:こごみ日和90号
~第18回~ 管楽器奏者の強い味方「上手楽器」
北野天満宮近くに店を構える上手楽器の歴史は、半世紀を超える。リペアマン(修理技術者)が常駐する、京都でも数少ない楽器店だ。2階の修理コーナーでは、リペアマンの西にしべ部佑一さんが、細かな部品の一つ一つを真剣な眼差しで点検していた。
上手楽器では、プロ奏者の楽器メンテナンスから、学校等の吹奏楽部の出張修理まで、幅広く受け入れている。学校での出張修理は、できるだけ生徒に修理の様子を見てもらい、一緒に仕上がり具合を確認する。「今まで音を出すのに苦労していたのに、少しの調整で楽器の吹きやすさ、音の伸びが全然違う!」。生徒たちからの「ありがとう」が、長時間に及ぶ修理作業の疲れを吹き飛ばす。
「楽器を演奏することは、楽器を育てることと同じです。例えば、ペットに毎日えさをあげ、毛づくろいをし、体調に変化があれば病院に連れていく。それと同じで、楽器にも日々お手入れが必要です。僕らは、そのお手伝いをしたいんです」。こう話すのは、上手優人さん。創業者、上手稔さんの孫であり、彼もリペアマンだ。繊細で精密な構造の管楽器は、突然音が鳴らなくなることもあり、親身になって修理してくれる彼らはとても頼もしい存在だ。
初めて楽器を購入する際も、奏者の年齢やどれくらい楽器を続けたいかという希望にぴったり合う楽器を提案してくれる。演奏を続ける中で、「少しでも楽器に違和感があれば気軽に相談してほしい」と優人さん。
「奏者の一番近くに寄り添う楽器屋」を目指し、若きリペアマンたちの奮闘は続く。
松村香代子(2021年8月10日取材)掲載:こごみ日和89号
▶上手楽器
~第17回~ 愛和工芸
北区の原谷に工房を構える「愛和工芸」では、この道一筋50余年の家具職人、田中和男さんが木製注文家具や木工品の製作販売から、修理・再生まで行っている。工房内の展示場には、無垢材の一枚板テーブルや収納棚、箱物の調度等、田中さんが手がけた製品がずらり。釘を使わない伝統的な木組み技法を用い、板の割れ止めに蝶型の木片を埋め込む千ちぎ切り加工や、「こっとり」と呼ばれる鍵の細工など丁寧な手仕事が光る。引出しがスーッと滑るように出てくるのが何とも心地いい。
注文家具の製作を通して多くのお客様の声に応えてきた、その腕と経験を活かし修理・再生にも力を注ぐ。「新居の間取りに合わせてリメイクして」や「形見のタンスを現代風に」、さらには「解体した家の床の間の板で家具を作って」「扉の彫刻が欠けたので再生して」等々、まるで木のよろず相談所だ。「一つひとつの依頼に込められた想いがある。その想いを形にして応えたい」と田中さんは言う。一対一の“顔の見える”関係を大事にしながら、お客様の暮らしや想いに寄り添った家具を提案し続けている。
展示場には、田中さんの奥様、真由美さんが手がける「西陣織木きめ目込みシリーズ」の小物も並ぶ。これは家具を作る過程で出る端材と、真由美さんの趣味の木目込み人形で使う西陣織の端切れとのコラボによって生まれたもの。壁飾りや香炉台など、使い方は無限だ。和のインテリアとして海外のお客様にも人気だという。「まさに“もったいない精神”の産物です」と笑う真由美さん。温かい眼差しでものづくりと向き合う、素敵なご夫婦の姿があった。
藤原幸子(2021年4月11日取材)掲載:こごみ日和88号
~第16回~ 人形修理職人ネットワーク「福田匠庵」
人形修理を始めたのは2006年。「これなんとか直らへん?」というお客さんの多くの声が事業開始のきっかけとなった。
時代の変化と共に、飾る機会が少なくなった人形。さらに、「日本人形=怖い」というイメージの広がりも生活から人形を遠ざけた。押し入れの奥で長く眠った人形は、湿気やほこりが原因でしみやひび割れができてしまう。そんな人形を可愛らしく蘇らせるのが『福田匠庵』の職人チームだ。
人形修理の依頼は年間約500件。お客さまの希望を一つひとつ丁寧に聞き取ることから始める。人形の制作過程は非常に複雑で、お顔・着物・髪の毛・小物などそれぞれ別の職人がいる。全員が知恵や技を出し合って、ひとつの人形を完成させる。また、陶器の人形や、洋人形の修理にも可能な限り応える。その為、ひとりの職人ではなく、「職人衆」で依頼を受ける。
2階の工房では、職人たちが真剣な眼差しで人形と向き合っていた。「ひとつも同じ修理はないんです。だから、毎回最善の方法を模索しています。」とひとりの職人が語ってくれた。人形に愛と魂を籠めていく様子を見るうちに、私も人形が愛おしく思えた。綺麗なお顔、上品なたたずまい、愛らしい表情、見ているだけで心が落ち着いた。
「人形を美しい姿のまま保つには、定期的に箱から出してあげて、お顔を見てあげる。そんな優しさは人形にも伝わりますよ。」と主宰の福田眞一さん。次の代、その次の代にも愛され続ける人形であって欲しい。福田匠庵の職人衆は、今日も可愛らしい人形と向き合っている。
岸さゆり(2021年1月18日取材)掲載:こごみ日和87号
▶福田匠庵
~第15回~ 京都のエアコン修理・メンテナンス「株式会社 空間工房」
理想空間を求めて、40年以上。空間工房は、業務用エアコンの据え付け、入れ替えから、修理、メンテナンスなどを行う空調のなんでも屋さんだ。社長の北山博さんは、大学で機械工学を専攻。当時は高級品であったクーラーが今後必需品になると確信し、20代で高校の同級生と空調機器を扱う会社を設立した。「毎日試行錯誤の連続だった」と北山社長は当時を振り返る。遠洋漁船の冷凍設備の施工・管理なども経験し、技術を磨いた。2008年に独立。現在では、オフィスビルの空調メンテナンスや企業から依頼された空間設計などを手掛けている。
年々気温が上昇している京都では、エアコンが故障したとなれば一大事。そのため、夏の猛暑の中では深夜早朝でも、顧客からの一報で駆けつけることもあるといい、顧客にとって大変心強い味方だ。
エアコンが故障した際、買い替えるよりも修理を行う方が安く済むはず。しかしメーカーの事情により部品価格は年々高くなり、現在は一式交換が主流となっている。「それではごみが増える原因となる上、技術者が育たない」と北山社長は危機感を持つ。「部分修理ができてこそ、本当の技術者だ」。
最後に、家庭用エアコンでも実践できるメンテナンス方法を聞いてみた。「1ヶ月〜半年に1回のフィルター掃除」、そして「定期的に電源を入れて使用すること」という簡単なケアが、エアコンの寿命を延ばす技だそうだ。このコロナ禍で活躍するエアコン。ぜひ実践してほしい。
白井音々(2020年10月19日取材)掲載:こごみ日和86号
~第14回~ 京都の黒染め・染め替え「株式会社京都紋付」
シミや汚れが付いてしまって、大切にしていた服を泣く泣く捨てる、そんな経験はあると思う。父の形見のコート、母からもらったドレス、初任給で買ったジャケットなど、今までシミなどで諦めていた服も蘇らせる黒染めの会社を取材した。
株式会社京都紋付は100年以上、黒染めを守り続けている。しかし、時代と共に紋付の取扱量は激減し後継者不足にも悩んでいた。このままでは、せっかくの歴史、伝統や技術が失われてしまう。時代の変化と共に、世の中のニーズや在り方は変化する。
2013年、長年の黒染めの技術を活かした挑戦、古着の染め替えを始めた。※同年、WWFとのコラボ「パンダブラック」リウェアプロジェクト
光を反射しない深黒(しんくろ)を追求した技術は、世界最高水準を誇る。京都紋付の黒染めの特長は、自宅で洗濯しても他の衣類といっしょに安心して洗える事だ。さらに、撥水性もある。染め替えた服を見て非常に興味深かったのは、黒色に表情があることだった。Tシャツ、ジャケット、コート、ワンピース、デニムなど、それぞれが違う黒色に見えた。生地の素材や、もともとのデザインによって染まり方は多様。まさしく、服が蘇る、いや、元よりかっこよくなると思った。荒川社長は、「服によって染まり方が違うところにも、黒染めの奥深さがある」と語った。
染め替えブランドは、KUROFINEから「K」として再出発を始める。汚れを隠すだけではなく、服の楽しみを2倍、3倍にする染め替え。染め替えが選択肢のひとつになる日を目指して、荒川社長の挑戦はまだまだ続く。
岸さゆり(2020年8月7日取材)掲載:こごみ日和85号
~第13回~ ミシンの修理 ソーイングスペース「風蝶庵(FUCHOAN)」
「風蝶庵」は、ミシンのプロがいるお店。1級縫製機械整備技能士で、京都府ミシン電気商業協同組合※ の理事長でもある秋田寿史さんが、工業用、職業用、家庭用ミシンの他、あらゆる縫製機械の修理に対応している。修理・販売の他、ソーイングレッスンやワークショップを開催して、正しいミシンの使い方を伝えながら暮らしを彩るミシンの魅力を発信している。
嫁入り道具として愛着あるミシンを直してほしいなど、製造から10年以上経ったミシンの修理を依頼されることがある。修理に必要な部品がすでにメーカーにない場合は本来なら修理不可能だが、秋田さんが自ら保存しているものの中から探してなるべく修理できるように心がけている。修理のためにストックしている中古ミシンの部品は相当数に上るという。近年、廉価で販売されているミシンの中には使い方を誤るとすぐに故障してしまうものもあり、秋田さんは心を痛めている。「これから購入する方には、修理して長く使い続けられるミシンを薦めています。本来ミシンは、メンテナンスをすれば二代、三代に渡り使えるもの。ミシンは湿度を嫌うので、押し入れに仕舞わず、半年に一度でもいいから使ってほしい」。秋田さんの願いだ。
※京都府ミシン電気商業協同組合では、定期的に勉強会を開催し、修理技術の向上を図るとともに、最新のミシンの扱い方を学ぶ機会を作っている。今後は、組合関係者だけでなく、ミシンに関心のある一般の方にも参加してもらい、ミシンを長く大切に使ってくれるファンの裾野を広げたいと願っている。
松村香代子(2020年4月16日取材)掲載:こごみ日和84号
▶風蝶庵
~第12回~ STOCKROOM(ストックルーム)
修理といえば多くの場合、壊れたことがわからないよう元の姿に戻そうとする。しかし、日本には壊れた部分をあえて目立たせ、“景色”として新たな魅力を生み出す伝統的な修理法がある。それが「金継ぎ」。陶磁器の割れ、欠け、ひびなど破損した部分を漆で接着し、金や銀の粉で装飾して仕上げる修復技法である。この技法で、傷んだ器に新しい命を吹き込むのが、アンティーク雑貨店「STOCKROOM」のオーナー國本みきさん。海外からコンテナで届く食器が無残に破損しているのを見て「せっかく海を渡ってきたのに可哀そう」と感じたことが金継ぎの技術を身につけるきっかけとなった。彼女のもとには数々の修理依頼が届く。茶道具や美術品が多いのかと思いきや、「日常使いの愛着のあるものや形見の品、大切な方からの頂きものなどがほとんどです。本当に気に入ったものを長く使い続けたいと考える方が増えてるんでしょうね」と國本さん。
依頼は直接持ち込まれることが多く、どの依頼主も「直してでも使い続けたい」という熱い想いとともに大切な器を國本さんに託していく。工程ごとに漆を乾燥させたり、根気よく陶片を継ぎ合わせたり、時間と手間のかかる手仕事だ。「依頼主の想いの籠もった品だからこそ失敗はできない。一品一品が真剣勝負」という思いで作業をしている。完成した器を手にした依頼主から「あのキズがこんなにきれいに!」「割れる前より素敵になった!」と笑顔が引き出せたら、ホッとするという。一度壊れた器でも、それまで以上に愛着をもって使ってもらえることが、何よりの喜びだ。
破損状況や使用する材料によって料金は異なるが、「普段遣いのものだから」と高くても5000円は超えないようにしている。國本さんならではの値段設定も気軽に金継ぎを依頼できる理由の一つかもしれない。
藤原幸子(2019年11月18日取材)掲載:こごみ日和83号
~第11回~ 革工房 GYPSY(ジプシー)
牛革をはじめ、革素材や皮革手芸材料全般を扱う『革工房GYPSY』。創業30年、2代目オーナーの内永宜孝さんが、革の仕入れから革製品のオーダーメイド、修理までを丁寧に行う店だ。インターネットを通じてどんな素材でも手に入る時代だが、革のプロに相談したいと遠方から足を運ぶ人も少なくない。
内永さんは、初代オーナーである父から革の魅力を教えられた。自分も革に関わる仕事がしたいと、大阪の革製品のメーカーに就職。革の選び方からデザイン、縫製、販売までを一から勉強した。工房を任された当初は、修理技術を父から学んだ。修理は一点一点の状態が異なるため、必ずカウンセリングをし、「どこをどのような方法で直すのか」「修理費はいくらかかるのか」お客さんの気持ちに寄り添い、なるべくコストがかからない修理方法を提案する。よくある依頼は、革製のカバンの内側にカビが生えてしまい、内側を新しい生地に変えるというもの。「革製品は湿気を嫌うので、押入れにしまい込まず、適度に使って欲しい」と内永さん。修理できるものは革製品だけでなく合成皮革や厚手のキャンバス地など、「工房には専用の道具があるので、できることなら何でもしますよ」と頼もしい。
初代が作ったカバンの修理を依頼された時、30年間の重みを感じた。父親の背中を追いながら、独自のスタイルで革の魅力を発信し続ける革工房 GYPSY。「革が好きな人、革製品を大事に使ってくれる人が増えたら嬉しい」、親子ニ代の願いだ。
松村香代子(2019年8月7日取材)掲載:こごみ日和82号
~第10回~ 桐工房
防湿性、防水性、防虫性、難燃性に優れ、着物や貴重品の収納・保管に最適な家具として知られる桐たんす。婚礼家具として両親から娘へと贈られることも多く、大切に使われてきた。昭和30年代、お年玉年賀はがきの特等商品に選ばれたと聞けば、当時いかに高価で、庶民の憧れの品であったか想像できるだろう。
北山杉で有名な北区北部の山間地域にある「桐工房」の作業場を訪ねた。ここでは工房主が一人で腕を揮い、桐たんすの修理・再生を行っている。「桐たんすは古くなったら削って再生できる一生もの」と主。祖母や母の嫁入り道具だった桐たんすを受け継いで使いたいと修理に出されるケースが多いという。
再生作業は、金具を外しお湯洗い→割れ・欠け等の補修→カンナで表面を削る→トノコを塗る(表面処理)→ウズクリ作業(美しい木目を出す)→磨き仕上げ→金具を取り付けて完成。新品同様に美しく優美な姿に甦る。「昔のままでは使いづらいと、現代の暮らしに合わせたチェストなどにリフォームを希望される方もある」と話す。
現在76歳の主は、桐たんす一筋に生きてきた職人…かと思いきや、実は、長年、呉服業界に携わってきた御仁。着物収納に最適な桐たんすの優秀さを顧客に説くうちに、もっと多くの人に使ってほしいと思うようになり、50代で華麗なる転身を遂げた。「両親に高いお金をかけて用意してもらった桐たんすを使わないで眠らせていてはもったいない。きれいに甦らせ、親の想いまで継いで、長く愛用してもらえたら嬉しい」。3回削り直して100年は使えるという桐たんす。再生修理によってその寿命を最大限に活かしきりたいものだ。
藤原幸子(2019年6月1日取材)掲載:こごみ日和81号
▶桐工房
~第9回~ なかにしや京扇
扇発祥の地といわれる五条通界隈には、昔から多くの扇工が集まり、一帯を「骨屋町」と呼んだという。今回訪れたのは、その一角に暖簾を掲げる京扇子専門店「なかにしや京扇」。三代目の中西潤吉さんが製作から販売まで一貫して行い、修理やオーダーメイドも請けている。
扇子と一口に言っても、涼をとる持ち扇だけでなく、儀式扇、芸事扇、飾り扇など多くの種類があり、扇骨の数や扇形、素材も様々である。修理依頼は京扇子に限らない。「唐扇や洋扇、蔵に眠っていたという軍扇・鉄扇が持ち込まれたこともある」という。
現在、扇子の修理をする店は数えるほどしかない。理由を問うと「何人もの職人を使って修理するぐらいなら新しいのを買うて、となるわけや」と中西さん。その言葉の通り、京扇子の業界は分業制だ。竹を切るところから仕上げまで大別すると8工程、更に細分すれば50以上の工程に分業化され、それぞれの専門職人が手作業で一本一本作ってきたのだ。負けず嫌いだった中西さんは、子どもの頃から職人たちのもとへ通いつめ、手元を見て技をぬすみ、扇骨の加工以外、ほぼすべての作業を一人でこなせるよう腕を磨いた。だからこそ出せる「修理」の看板なのだ。
修理をすることは「先人や他の職人との出会い」だと中西さんは言う。「修理を通して、会うたこともない職人の物作りが見られるんやからワクワクする」と。自身の父親が50年ほど前に手がけた品との出合いもあった。「お客さんはたまたま持って来られたんですけど、『おぉ!』という感じやったなあ」。その時の感動をたいへん嬉しそうに話してくれた。
藤原幸子(平成31年2月2日取材)掲載:こごみ日和80号
~第8回~ ギター販売・修理 イースト・ビレッジ・ギターズ(East Village Guitars)
ギター修理に定評があるイースト・ビレッジ・ギターズは、オーナーの東村 章弘さんが切り盛りする店だ。ヴィンテージのエレキギターやフォークギターを中心に、弦やエフェクター(ギター音を変化させる機材)なども充実、初心者用に手頃な価格のギターやウクレレが置いてあるのも嬉しい。
ギターは、ネック(棹)と呼ばれる部分が少しずつ曲がってくる。弦の張力や気温・湿度などが原因で、そのままでは満足な演奏ができない。エレキギターのネックの内部には予め鉄の棒が入っており、その角度を修正することで、元の真っすぐな状態に戻すことができる。ペグと呼ばれる糸巻きやフレット、ピックアップ(弦の振動を電気的信号に変える装置)なども修理・交換可能で、「自分にできることなら何でもします」と東村さん。電気系統の修理にも可能な範囲で応じてくれる。
時折、若い人が年代物のギターを持ってくる。聞けば、親が使っていたものを譲り受けたと言う。「長年眠っていた楽器が蘇るのは嬉しいですね。昔の楽器は、素材が良い。使わないからといって捨てるのは本当に惜しい。是非、修理をして弾いて欲しい」。楽器を長く愛用するためには、アフターケアは必須。東村さんの確かな技術は、プロのギタリストにも喜ばれている。
最後に、東村さんお手製のエレキギターを聴かせてもらった。繊細で優しい音色は、ギターを愛する人の心にずうんと響く、愛情に満ちた調べだった。
松村香代子(平成30年12月15日取材)掲載:こごみ日和79号
~第7回~ 小さな工房 JewelryPetit(ジュエリープティ)
引き出しの奥で眠っているジュエリーに新しい命を吹き込んでくれる「小さな工房 JewelryPetit」。工房を併設する北山の本店を訪ねると、落ち着いた雰囲気のプライベートサロンが広がる。「この仕事はお客様の想いをじっくり聴くことから始まります」と話すのは、国家資格1級の職人でもある店長の小須田元さん。デザインから制作まで一貫して手がけており、オーダーメイド・修理・リフォームなど、それぞれの要望に応じた好みのデザインに仕上げてくれる。
「立爪の婚約指輪を普段使いできるデザインに」、「母から譲り受けた指輪のサイズ直しを」、「旅先で拾った思い出の石をエンゲージリングに」等々、オーダーの内容は多岐にわたる。肌身離さずつけておけることから、「主人の形見のカフスの石を指輪に」、「亡くなった子どもの遺骨をペンダントに」といった特別な想いのこもるオーダーも少なくない。「身につけるお客様の顔や想いがわかっていると、作業にも気持ちが入りますね。その想いをカタチにするのが我々の仕事です」と店長。完成したジュエリーを手にして、「大切な人をいつもそばに感じられます」と涙ぐむ人もあったという。
同店で手がけたジュエリーは、生涯メンテナンスをしてくれる(※オーダーメイド、またはリフォームを手がけたものに限ります)。大切な記憶や想いの刻まれた唯一無二の価値をもつジュエリーと、そのお客様の人生が、ずっと輝き続けますように――そんな想いがこめられている。
藤原幸子(平成30年9月19日取材)掲載:こごみ日和78号
~第6回~ きものクリニック 悠遊舎
久しぶりに着物を着ようと箪笥を開けると…シミやカビが目立ちこのままでは着られない!という経験はないだろうか。今回訪ねた「きものクリニック 悠遊舎」は、着物の困りごとの相談に乗ってくれる頼もしい存在だ。
この日、着物の染み抜き職人 田畑秀幸さんは、カビによる黄変を元の状態に戻す作業をされていた。一カ所ずつ、汚れの具合を確かめながら専用の薬品を染み込ませ、蒸気を当て、乾燥させる。一度でシミが落ちない場合もあり、体力的にも大変な仕事だ。
長年、この仕事に携わる中で、印象に残っている依頼がある。母が着た振袖を、娘が成人式に着たいと言う。しかし、その着物は訪問着として仕立て直されており、再び振袖として着るには、袖を縫い直さなくてはならない。田畑さんは、ご自身のことを「染み抜き悉皆※」と呼び、着物を蘇らせるためにあらゆる手を尽くす。幸い、袖の保管状態は良く、縫い合わされた部分が目立たぬように金彩加工を施し、デザインのバランスを取るため着物の裾にも金彩で型染めを加えた。再び振袖として生まれ変わった着物を着て、母娘の感激は一入※。この仕事は、京のお直し屋さん情報サイト『もっぺん』でも紹介され、ニーズが広がっている。
田畑さんは、シミの色を見た瞬間、「ああこうやったらうまくいくなあ」とイメージが頭の中に浮かぶという。技術と経験に加え、依頼者の気持ちに寄り添う優しさによって、着物文化が守られている。
※悉皆(しっかい)… 京都では、着物の図案から染め、仕立てに至るまで、着物作りを総合的にプロデュースする専門職を指すことが多い。一般的には、染み抜きや仕立て直し等のアフターケアを請け負う仕事の意。
※一入(ひとしお)…ほかの場合より程度が一段と増すこと。多く副詞的に用いる。いっそう。ひときわ。また染め物を染め汁の中に1回つける意味もあらわす。
松村香代子(平成30年8月1日取材)掲載:こごみ日和77号
▶悠遊舎
~第5回~ 修理から洗浄まで、革製品を甦らせる 靴専科
京のお直し屋さん情報サイト『もっぺん』で「靴」のお直し屋さんは洋服に次いで多く“まるごと洗う”という店まで! 今回はその中から、フランチャイズで全国展開する「靴専科」の河原町店を訪ねた。
もともとオーダーメイドの靴職人だった店長の角南さんがその腕と知識を生かし、かかとやソールの交換、傷んだ箇所の修理、色褪せた革の色補正やリ・カラー(色変え)、クリーニングなど、それぞれの状態に合った方法で靴やバッグを甦らせてくれる。「革製品を洗っても大丈夫?」と問うと、同社開発の洗剤で栄養を与えながら洗浄し、専用機でじっくり乾燥させるので革を傷めることはないとか。除菌・消臭効果のあるオゾン水を使うので、汚れとともに臭いも軽減される。
修理依頼は幅広い世代からあるが、古着店で買った製品を「修理で何とかなりませんか」と持ってくる若者が少なくない。裏寺町にあるこの店ならではの客層だろう。
ある時、「このバッグで財布を3つ作ってほしい」との依頼が。祖母の形見を孫三人で持ちたいのだという。久々に腕が鳴った。デザインは任せてもらい、3つの財布を仕上げた。この仕事のやりがいは“完成品を見せた時のお客様の表情”だという店長が、「あの時の笑顔は今でも忘れられない」と振り返る。
「靴は一生もん」と店長は言う。革靴は長く履けば足にフィットして履きやすくなる。長く履くためには「連続して履かない(通気)」、「クリームを塗る(保湿)」など日々の心がけ、そして定期的なメンテナンスが不可欠。古くなったけれど、お気に入りだから捨てられない。そんな靴やバッグをしまい込んでいる人は相談に行ってみては。
藤原幸子(平成30年5月9日取材)掲載:こごみ日和76号
~第4回~ ヘルシーな睡眠を求めれば、エコにたどり着く 田村ふとん店
近頃、目覚めがすっきりしない…。そう、感じているなら、固くなったり、弾力がなくなっていないか、ふとんをチェック。木綿わたのふとんなら、打ち直しという、ふとん屋さんの多くが、昔から手がけているリフォーム方法で新品同様によみがえる。吸湿性や保温性が再生されるばかりか、ダニやホコリも除去し、フカフカ状態に。
近年、普及している羽毛ふとんもリフォームでき、洗ったり、汚れを取るとふんわり感がもどる。
量販店などが多く扱うポリエステル製のふとんは、吸湿性が低く蒸れやすい上、打ち直しもできないため、数年経つとへたってしまう。不要になると、大型ごみとして、そのまま廃棄されることが多いと聞く。人は睡眠中にコップ1杯程の汗をかくとされる。木綿のふとんは、中空という組織を持ち、睡眠中の汗を程よくコントロールしてくれ、寝床内温度を適切に保持する。つまり、快適な睡眠がかなう訳だ。
今回訪ねた『田村ふとん店』慶応3年西陣に店を構えたこの店は、ふとんの打ち直しをどれだけして来たのだろう。そして今、店主の成史さんは睡眠改善インストラクター、さらに寝具製作技能士の資格を取得し、健康な眠りのアドバイスに対応している。もちろん木綿わたの打ち直し、羽毛ふとんのリフォームはお手のもの。健康もエコも叶える、ふとん。田村ふとん店で教わった。
※参考として、京都市の大型ごみの内、ふとん・カーペット類は7.8万件(大型ごみ全体の約20%)(平成29年3月末現在京都市調べ)
森田知都子(平成30年1月23日取材)掲載:こごみ日和75号
~第3回~ お客も得する、エコ活動 クリーンショップ おくむら
環境への意識が高く、エコポイント制を取り入れ、顧客サービスを行っているクリーニング店があると聞き、訪ねた。クリーンショップ おくむら(以下 おくむら)では、収納力のあるエコバッグを配布し、引き取りの際に持参するとエコスタンプカードにスタンプを1個押印。さらにリユースのためハンガー回収も行い、10本持参するとスタンプ1個がもらえる。スタンプは合計7個貯まると50円券と交換するしくみ。不織布製のエコバッグは、かさばりがちな布製品の運搬に重宝と好評で、すり切れるまで繰り返し使う人も少なくないようで、お店の思いが利用者にしっかり伝わっている。
繊維製品を使っていると、虫食い、縮み、臭いなどに悩まされたりすることがある。おくむらでは、防虫・防菌・防臭など各種加工に対し、環境や人体への影響に配慮した手法を早くから取り入れている。裾直し、ファスナーの取替、ボタンの補強などのサービスも行う。取材を通して、愛着のある衣服や布製品と長くつきあう秘訣は「クリーニングできちんと手入れすることをお勧めします」と奥村社長に教わった。
森田知都子(平成29年10月25日取材)掲載:こごみ日和74号
~第2回~ 傘のお医者さん ピチ&チャプ ニシカワ
6月、梅雨のある日、耳にしたちょっといい話。その人は骨が折れた傘を修理してもらったと笑顔で話された。
京都府の年間降雨日は※106日だという。出番の多い傘。しかし、傘は故障が絶えない。スーパーなどの売場には傘がズラリ並ぶ現代、故障した傘は捨てて、新品を購入するのが手っ取り早いのだが…。
京都には、高名な傘のお医者さん「ピチ&チャプ ニシカワ」があるというので、そちらを訪ねた。店には洋傘やレインウエアが並べられている。創業は明治40年。もとは和傘や提灯を手がけていたが、時代とともに洋傘、レインウエアを扱うように。1970年代以降、流通や消費形態の変化とともに、傘の修理を扱う店舗が減り、各地から依頼が舞い込むようになった。北海道から九州まで常時約200本を抱える。
この日、「持ち手が外れた」と駆け込んで来た人がいた。40年前、修学旅行のために用意した折り畳み傘。赤のチェック柄が気に入り、今も愛用されている。先生は、早速、夥おびただしい数の持ち手のストックの中から、「これがええやろ」と1つを選び取り替えた。その間5分ほど。その人は修理代を払い「ありがとう」の言葉を残して店を辞した。傘のお医者さんを務める西川さんは今年84歳。これからもお健やかに傘の修理をお願いしますよ。
森田知都子(平成29年8月1日取材)掲載:こごみ日和73号
~第1回~ 早川刃物店
5月のある日、「早川信久」のブランドを掲げ、四代目が受け継ぐ、早川刃物店の暖簾(のれん)をくぐった。この店には、「研ぎ」を中心に修理の依頼が、続々持ち込まれる。近畿ばかりか、北海道や鹿児島から、包丁、ハサミなど多彩な種類の修理依頼が届く。
物を切る、割る、削る…。私たちは遠い昔より、刃物に支えられて暮らしている。刃物の原料は、炭素鋼、合金鋼類(ステンレス鋼など)。空気中の酸素や水分の働きで「サビる」のは宿命でもある。さらに、刃が欠ける、折れるなどのトラブルも。包丁の場合、口金が外れ、木材である柄の部分が腐ったり、割れたりもする。
「研ぎ」は、素人がすると、刃物の命でもある切れ味が課題になる。愛着を持つなら、プロに任せるのが賢明。四代目となる中下さんご夫婦は、依頼に応えようと、最善を尽くす。まずポイントを見定め、「研ぎ」の方法を決める。一丁一丁研ぎ、磨き、刃返りを確認しながら天然の砥石(といし)で丁寧に仕上げる。時には、包丁の折れた柄を取替え、再び使えるまでに技を尽くすことも。
ある高齢の女性が持ち込んだサビの付いた包丁をピカピカにして渡すと「まぁ、こんなにきれいに。新婚旅行で買った包丁なの」と笑顔を浮かべられたそう。「喜んでもらえるとき、やりがいが」と、中下さん。物と物の間に、人と人との間に生まれる小さな物語がここにあった。
森田知都子(平成29年5月16日取材)掲載:こごみ日和71号